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Zoology / Review Essay

Vol. , NO. / October 2021

霊長類の記憶

Tetsuro Matsuzawa

Letters to the Editors

In response to “霊長類の記憶


わたしは霊長類学者として、チンパンジーの研究を野外と実験室でしてきた。動物界においてチンパンジーは最もヒトに近い魅力的な存在だ。このエッセイでは、自分がおこなってきた研究成果の紹介を通じて、霊長類と、記憶と、そして人間の心の進化について語りたい。

チンパンジーと人間(ヒト、学名ホモ・サピエンスという現生人類)の共通祖先は約500-700万年前にさかのぼる。両者の全ゲノム解析が終わってDNAの塩基配列の違いは約1.2%だとわかった。1 言い換えると、われわれ人間は98.8%チンパンジーだともいえるだろう。チンパンジーにはボノボと呼ぶ近縁種がいる。2 この2種は、人間との遺伝的な距離でいえば等しく離れていて、ともにアフリカにいる。ゴリラもアフリカにいて、約800-900万年前の共通祖先から分かれて、一方はゴリラとなり他方が人間及びチンパンジーになった。大型類人猿としてはチンパンジーとゴリラのほかにオランウータンがいる。彼らは東南アジアのスマトラ島とボルネオ島だけにすむ。進化的にみて彼らも人間に近い。つまり生物分類学上、「ヒト科」には4属の動物がいるということだ。ヒト、チンパンジー属(チンパンジーとボノボという2種)、ゴリラ属、そしてオランウータン属である。このヒト科4属の共通祖先は、およそ1400万年前にいた。

今この地球上には数百種類の霊長類つまり人間を含めたサルの仲間がいる。その数は分類方法で違うが、国際自然保護連合の2019年の資料では79属512種に分類される。人間を中心に据えた視点でこれら霊長類は以下のように大別される。人間を含めたヒト科、テナガザル、旧世界(アフロユーラシア)ザル、新世界(アメリカ)ザル、キツネザル、原猿の6つのグループである。そうした立場を意識して世界中のさまざまなサル類を見てまわった。人間を除くとサル類はアフリカとアジアと中南米に分布している。 あまり一般に意識されないが、北米とヨーロッパにサルはいない。アメリカザルはいないし、イギリスザルも、フランスザルも、ドイツザルもいない。しかしニホンザルはいる。日本にしかいない、ほかの国にはいない固有なサルである。欧米ではスノーモンキーとも呼ばれる。サルというと一般に暖かいところに住む動物というイメージが強いが雪の中でも暮らしているからだ。志賀高原の温泉につかるサルのようすはよく知られている。宮崎県の幸島のサルはイモ洗いをすることで有名だ。餌づけのために砂浜にイモがまかれた。すると砂にまみれたイモを近くの小川で洗って砂を落とすものが現れた。さらには海辺まで運んで海水で塩味をつけて食べるようになった。イモ洗いは1953年に最初に発見された。その後、親から子どもへと世代を超えて引き継がれることがわかった。温泉につかるようになる、イモ洗いをするようになる、それが世代を超えて群れの伝統になっている。人間以外の動物で初めて確認された文化的行動だといえる。3

チンパンジーの道具使用

わたしは野生チンパンジーの道具使用について研究してきた。西アフリカのギニアという国のボッソウという場所の群れを研究対象にしてきた。ここのチンパンジーたちは葉を道具として、木の空洞にたまった雨水をすくって飲む。幅広の葉を口に入れるときにちょうど日本の折り紙のように畳み込むという技法だ。4 また一組の石をハンマーと台にしてアブラヤシの種をたたき割る。5 種は硬い殻で覆われていて、それをたたき割ることでアーモンドのような形をした核(正確に言うと仁と呼ばれる可食部)を取り出して食べる。わたしも食べてみたがけっこうおいしい。チンパンジーたちはアリ釣りもする。無数のサファリアリ(さすらいアリ)が地面を移動するし巣の中にもいるのだが、そこに棒を浸して、驚いて次々と群がり来るアリたちが塊になったところですくいあげて口にほおりこむ。わたしもサファリアリを棒で釣って食べてみた。シャキシャキした噛み応えでけっしておいしくはない。もたもたすると口の中でアリが舌をかんだりするので要注意だ。

ボッソウの野生チンパンジーたちは別の種類の棒も使う。池の水面に浮かんだアオミドロと呼ばれる水藻をすくいあげるための道具だ。この新種の道具使用を、タチアナ・ハムルとわたしが1995年に最初に発見した。彼女は当時英国エディンバラ大学の学部生だった。その日、フォタユと名づけた4歳の女性チンパンジーが、草の茂みに入って道具を作るところからの一部始終を観察することができた。最初に、草むらから羊歯 (ウラボシ科の学名Cyclosorus aferを選んで抜き出した。次に、その羊歯の茎を片手に持ったまま先端を嚙みちぎって、長さを50センチほどに整えた。最後に、棒の先端を口にくわえたまま片手を茎の先端から根元のほうに動かして横に張り出した葉(正確には小葉)をそぎ落としていった。これで釣り棒ができた。邪魔な葉を取り除くとその根元のところに小さな突起物が残る。その突起物が水藻をからめとるのに便利なのだ6

水藻すくいの道具をどのように使うかを述べる。人差し指と中指のあいだに棒をはさむ。その持ち方はサファリアリを釣るときの棒の持ち方と同じだ。チンパンジーの親指は人間と違って短いので正確に握ろうとするとこの持ち方になる。フォタユは棒を水の中に差し入れて、手首を使って前後に揺するようにした。水面に浮いた水藻を棒でからめとる。水藻をしっかりと棒で捉えたら口に入れる。最初に見つけた行動のビデオ記録がある。「水藻すくい」と名付けた行動をデジタルに記載した標準行動標本(ホロタイプ)と呼べるものだ。7 水藻すくいも自分でやってみた。水藻は泥の味がしてけっしておいしいものではなかった。チンパンジーが食べるものは何でも自分で食べてみる、というのがフィールドワーカーとしての流儀である。

ジェーン・グドールがタンザニアのゴンベ保護区で野生チンパンジーの最初の道具使用を発見したのは1960年のことだ。シロアリ釣りと呼ばれる行動を発見した8 それから約60年が経過して、道具の製作や使用のリストは年々長くなっている。さらに言うと、チンパンジーはそれぞれの地域集団ごとに固有な道具の文化をもっていることがあきらかになった。9 ボッソウのチンパンジーたちはシロアリを食べるが、シロアリの塚から這い出てきたものを指でつまんで食べるだけだ。ゴンベのチンパンジーのように草の茎や小枝を釣り棒にして、シロアリ塚のトンネルに差し込んで、驚いてかみついてきたものを引きずり出してなめとるようなことはしない。それとは対照的に、ゴンベのチンパンジーたちは石を使ってアブラヤシの種をたたき割ったりしないし、棒を使って水藻をすくって食べたりしない。もちろんそこには石もあれば、アブラヤシも水藻もあるのにそうしない。何を食べるか、どのように食べるかは文化なのだ。

教えない教育・見習う学習

わたしはチンパンジーたちの社会的な場面での学習を「教えない教育・見習う学習」と名付けている。10 母親や群れのおとなたちが先生の役割をする。群れの子どもたちは生徒で、先生がするようすを注意深くじっと見守る。この観察学習の要点は以下の3点にまとめられる。第1に、先生は手本を示すだけだ。けっして手取り足取り積極的に教えようとはしない。第2に、生徒にはなんとか先生の真似をしようという強くて本来的な動機がある。第3に、そうした生徒に対して先生はきわめて寛容だ。石器使用の学習場面でそのようすを見てみよう。幼いチンパンジーたちは何とか自分で種を割ろうとするが常に失敗に終わる。最初に成功するのは4-5歳になってからだ。一方で、ひじょうに幼いチンパンジーは、母親が割った種の中身である核をもっていってかまわない。(チンパンジーは、はいどうぞというように物を子どもに与えることはきわめてまれで、親がもっているものを子どもが持ち去ることを許す)。母親が種を割ったところでその核を子どもが盗み取って食べてしまう。次に母親が割るとそれも取ってしまう。そうして7回も連続して子どもが食べた例を見たことがある。親はそれほど子どもに寛容だ。しかし、親が割った種を盗み取る行動は、実際には年とともに減ってゆく。一方で、石を触ったり、種を手にもったり、さまざまに組み合わせてなんとか割ろうとする行動は年々増えてゆく。まだ割れないから食べることはできないのだが、石や種を扱う行動が子どもの成長とともに増える。これは、食べることが直接の動機ではなくて、親やおとながやっているように自分もしたい、それが子どもの動機なのだとわかる。11

熱帯林の植物は多様で、ボッソウの森には詳しく数えると約600種類の植物がある。そのうち約200種類をチンパンジーは食用にしている。主には果実を食べる。そのほかに、葉や、花・茎・根・樹皮も食べる。若いチンパンジーたちは森にある植物についての知識を蓄え、森で生きていくために採食する術を身に着けていく。12 毎日、朝6時半から夕方の6時半まで、森でチンパンジーのあとを追う暮らしをしてきた。地元の助手たちの協力があって、チンパンジーの日々の暮らしのようすや彼らの社会生活について学んできた。13 そうすると、チンパンジーたちがいかに森のことをよく知っているか驚くことがままある。こんなところに熟れた実があるとは知らなかった!いつ、どこに、何があるか、ほんとうに彼らはよく知っていると驚くことがしばしばある。こうした知識や技術は、すでに道具使用の習得過程で述べたような「教えない教育・見習う学習」によって身に着けていくのだろう。

アイ・プロジェクト

野外研究はチンパンジーの行動や認識を知るうえでとても重要だ。しかし、さらに内的な認知機能を詳しく知ろうと思うと、野外研究だけでは足りない。緑の葉を背景にした赤い果実といった色の世界を、実際にチンパンジーはどのように認識しているのだろう。森のくらしで経験した事物を記憶する、その記憶とはどのような過程だろうか。そうした認知機能はチンパンジーと人間で比較して同じなのか違うのか。人間の体が進化の産物であるのと同様に、人間の心も進化の産物である。チンパンジーを深く知り人間と比較することで、人間の心の進化的起源がわかるだろう。14

グスタフ・フェヒナー (1801-1887) は実験心理学の祖である。彼は「心理物理学」と呼ばれる学問分野を創始した。知覚の(主観的な)世界と、物理の(客観的な)世界の関係を究明する学問だ。彼はウェーバー・フェヒナーの法則にその名前を留めている。フェヒナーは師であるウェーバーの発見を一般化した。たとえば、ある物体を手に持ったときの「重い」という重さの感覚は、その物体の「重量」と単純には比例しない。素朴に考えると重量が2倍になれば重さの感覚も2倍になりそうだが実際にはそうならない。客観的に測れる重量の対数に比例して主観的な重さが増加する、ということを発見した。記憶は心理学的研究の中核的課題のひとつである。ヘルマン・エビングハウス(1850-1909) がこの分野のパイオニアである。記憶と呼ぶ現象に心理物理学の考え方を持ち込んだ最初の研究者だといえる。彼は、SIF、PIJ、RIT、TASなど3文字からなる無意味つづりを使って記憶をテストする方法を考案した。こうした無意味な文字列を記憶するのにどれくらいの時間が必要か、自分自身を被験者にして測ってみたのだ。記憶は時間とともに減衰する。エビングハウスは忘却曲線すなわち時間とともにどれくらい記憶が減衰するかも調べた。

記憶という観点でいえば、チンパンジーが彼らの自然の生息地で示す知識や技術は、長期記憶(LTM)と分類される記憶だといえる。長期記憶とは短期記憶(STM)との対比で理解されている。長期記憶は一般に、宣言的(明示的)記憶と、手続き的(潜在的)記憶の2種類に分けられる。宣言的記憶とは、事実にかんする記憶や、いつどこで何がというエピソードを貯蔵し想起する記憶である。それに対して手続き的記憶とは、何をどんなふうにするのかという技能や手続きを保持するもので、たとえば泳ぐとか自動車を運転するといった技能に関わる記憶である。15 チンパンジーの野外研究を通じて、こうした種類の記憶を彼らがもっていると確信している。しかし、実際にどんな種類の記憶をチンパンジーがもっているのか、それは人間の記憶と同じなのか違うのか。そうした記憶のなかみを確かめるには、どうしても野外研究だけでは足りなくて実験的研究が必須だといえる。16

野外研究と並行して実験研究をわたしはおこなってきた。17 京都大学霊長類研究所を拠点にしたチンパンジーの認識と知性にかんする長期研究である。主な研究対象は、アイと名付けられた女性のチンパンジーだ。アイは、1976年にアフリカで生まれた。翌年、推定1歳のときに日本に輸入された。当時はまだそうしたことが可能で、絶滅の危機に瀕する動植物の国際商取引を規制する法律(CITES)を日本が1980年に批准する以前のことである。1977年11月、霊長類研究所の地下の1室で、わたしはこの小さなチンパンジーと初めて出会った。こうしてアイ・プロジェクトと呼ばれる研究が始まった。研究プロジェクトを主導したのは室伏靖子先生で、わたしの恩師である。それから先輩の浅野俊夫先生がちょうど米国での長期研修を終えようとするころで、わたしを含めた3人の教員でアイ・プロジェクトが始まった。わたしは当時27歳、チームの中で最年少だったのでチンパンジーの世話をして実際に認知実験をする役割を担った。アイ・プロジェクトの特色はその創設当初から一貫して今でも変わらない。つまり、コンピューターにつながった自動化された装置に1人のチンパンジーが向き合って座って、実験者である人間はほとんどまったく関与しないで、すべて自動的かつ客観的に実験データを収集するシステムである。

アイ・プロジェクトはいわゆる「類人猿の言語習得」と呼ばれる研究としてそもそも発足した。しかしわたし個人としては、言語を習得するか否かではなくて、その言語を使ってチンパンジーが見ている世界を解明したかった。わたしの研究の目標は、同じ装置を使って同じ手続きで、人間とチンパンジーの見ている世界を比較することだ。いわばチンパンジーを相手にした心理物理学を確立することで、「比較認知科学」と呼ぶ学問への扉を開けようと考えた。比較認知科学とは、人間とそれ以外の動物の心を比較する学問分野である。18

チンパンジーはこの世界をどう見ているか?

1978年4月15日、アイがコンピューターにつながるキーボードの上のキーを初めて押した。この年、3人の子どものチンパンジーを対象にした研究が順次始まった。アイの次にアキラ、そしてマリである。いずれも1歳半から2歳半のときだった。19 認知実験のための2メートル四方ほどの大きさのテストブースがあり、そのベンチにちょこんとチンパンジーが腰かける。目の前にキーボードがあって、5行7列で35個のキーが並んでいる。この1枚がひとつの単位で、将来的にはそれが3枚で合計105個のキーが取り付けられるシステムを浅野先生が作った。ひとつのキーの大きさは指先ほどのものだ。照光式キーといって、中に小さな光熱ランプが2個あって、キーを自由に点灯・消灯できる。光っていれば動作中で、暗ければいくら押しても作動しないというしくみになっている。チンパンジーたちはまずこの勉強部屋そのものとキーボートに慣れるところから始めた。そして最初の課題がキーを押すということだった。キーを押すとチャイムが鳴って、ごほうびのりんご片がもらえる。コンピューターとつなげてすべて自動的におこなうシステムだ。それから「同一見本合わせ」という課題に取り組んだ。チンパンジーが座った目の前にキーボードがあり、そのうえに小さなプロジェクターがあって、色や図形を映し出せるようなしくみになっている。プロジェクター画面に見本としてたとえば赤が映し出されたら、目の前のキーの中から赤色に光るキーを選べば正解だ。こうして赤と緑と青という光の3原色に相当する3種類の色をチンパンジーたちが識別できることを確認した。続いて、「記号素」と名付けた9種類の幾何学図形を識別する訓練をした。記号素は英語の頭文字で呼ぶこととして、 (H)水平線、(O)斜線、(W)波線、(S)たての波線、(B)小さな塗りつぶしたひし形、(D)小さな塗りつぶした円、(L)ひし形、(C)円、(R)四角形、の9種類である。

図1

  • Figure 1.

モニター画面に赤い四角形が示されて、該当する漢字の「赤」を選ぼうとするチンパンジー・アイ。写真撮影:松沢哲郎。

この「京大式図形文字(KUL)」と呼ぶシステムはわたしが考案した。記号素を2個とか3個とか組み合わせると、一見したところかなり多様な見え方になるように記号素の形や大きさや位置をくふうした。そのKULのアイデアは漢字からきている。数十万字あるとされる漢字も、すべて有限個の部首からできている。つまり基本となる要素図形があり、それを組み合わせることで多様な漢字を作る。同様に、記号素と呼ぶ要素図形があり、それを組み合わせることで京大式図形文字を作った。たとえば「鉛筆」を意味する図形文字は、記号素のBとRを組み合わせてできている。色の「青」は記号素のDとCを組み合わせた図形文字、「黒」は記号素のOとLとRを組み合わせた図形文字である。

記号素を組み合わせた図形文字を相互に識別できるようにしたあと、チンパンジーたちに「象徴見本合わせ」と呼ぶ課題を学習してもらった。見本は身の回りにある実物で、チンパンジーのキーボードの上に用意した小窓のところに実験者が置いた。いわば「これは何ですか?」とたずねて、その物を図形文字の名前で答えるというしくみである。身の回りの8つの品物を用意した。錠前、手袋、コップ、ボウル、靴、つみ木、ロープ、紙である。この8種類の物の名前をおぼえる。つまり、その物が小窓に置かれたら、それに対応する図形文字をキーボードの中から選んで押す、という課題を学習してもらった。8つの物の名前をおぼえるまでに、アイは57セッションを要した。アキラは83セッション、マリは104セッションかかった。これと並行して、図形文字を読み取る訓練もした。すなわち目の前のプロジェクターに図形文字が映し出されて、その下の棚に置かれた実物の中から、文字と対応する物を指で指し示す。具体的には、透明なアクリル板越しにその物の直下のキーを押す作業だ。こうして物を図形文字で表現し、図形文字を読み取って物を指し示すことができて初めて、事物を象徴と結びつける基盤ができたといえる。

アイが4歳になったとき、色の見え方の心理物理学的研究を始めた。まず色を表す図形文字を11色用意した。赤、橙、黄、茶、緑、青、紫、桃、白、灰、黒である。20 のちにタッチパネルが導入されるようになった時点で、図形文字を漢字に切り替えた。それぞれの色に対応した固有の幾何学図形パターンがあるという意味では、図形文字(KUL)システムも漢字というシステムも同じである。アイは色を図形文字でも答えられるし漢字でも答えられる。21 それぞれの色名は特定の色で教えた。市販のペンキの色である。そのあと、マンセル表色系の標準色彩票(日本工業規格Z-8721準拠の1928枚の色彩票)を使って、その中の224色について色の名前を答えてもらった。マンセル表色系では、ある特定の色を色相と明度と彩度で表す。たとえば、「赤」という色彩語は、アイの場合、色相7.5R、明度4、彩度14の色彩票に相当する赤色のペンキをもちいて学んだ。ではその色名を使って、少しずつ色合いや明るさの異なる色彩票が、いったい何色に見えるのかを答えてもらったのである。人間の色彩語彙の研究は文化人類学のなかで組織的におこなわれてきた。なかでもバーリンとケイは、色彩分類は人間という動物種に共通しているという言語普遍論に到達し、色彩基本語の進化に関する仮説を提唱している。22 チンパンジーのアイと人間の被験者が同じ課題に取り組んで224色について命名をしたところ、色の分類の結果やカテゴリーのもつ性質はきわめてよく似ていた。人間に普遍的な色彩分類はじつはチンパンジーでも同じで、両者の共通祖先に由来する、より一般的な認識体系を基盤としていることが実証された。

アイが5歳になったとき、アラビア数字で数を表現することを教えた。23 アイは世界で初めて数字を使って数を表現すること(当時でいって1から6までの数)を学んだチンパンジーである。物の名前や色の名前もすでに知っていたので、たとえば5本の赤い鉛筆が見せられると、キーボードの中から図形文字と数字を選んで、「赤、鉛筆、5」というように表現することができるようになった。自発的に作る「語順」が興味深かった。物―色―数の順で答えるか、色―物―数の順で答えた。3語で対象を記述する組み合わせとしては全部で6通りあるが、必ずこのどちらかの語順である。それを統一した規則は「数を最後に答える」である。

アイが6歳半になったとき、アルファベット26文字の識別を学び始めた。26文字の大文字を相互に確実に識別できるようになった。24 アルファベット26文字がキーボードにセットされているので、チンパンジー用のキーボードはまさに機能的には人間用のキーボードと同じである。興味深いことに文字の識別を学び始めた当初、アイはEとF、DとO、 OとQ、VとY、MとWなどをよく間違えた。こうした文字のかたちがアイには似て見えているからだといえる。人間の見え方と同じだ。アルファベットを識別できるようになったのでそれを使って視力を測った。3メートル離れたところに文字を出して、それがどの字かをキーボードの中から選ぶ課題だ。徐々に小さくしていって閾値を求めた。視力は両眼で1.5だった。その後、アルファベットに意味をもたせた。人間やチンパンジーの名前である。たとえばアキラはA、マリはM、松沢はZというように一文字で表す。5人のチンパンジーと5人の人間の名前を教えた。はじめの訓練は正面向きの顔写真1枚を使っておこなったが、かんたんにすぐ学習した。そのあと正面だけでなく横顔や上半身や全身でたずねたら、おもしろい結果がでた。アイにとってはチンパンジーの顔を識別するのはかんたんで人間の顔のほうがむずかしい。まったく同じ装置同じ手続きで同じ写真について人間にしてもらうと、チンパンジーの顔の識別の方がむずかしかった。25

アイが7歳半になったとき、図形文字を記号素から構成する能力について調べた。「構成見本合わせ」と呼ぶ課題である。見本は図形文字すなわち複合幾何学図形だ。アイの手元のキーボードにはこれらの図形はない。9種類の記号素しかない。画面に図形文字が出て、それと同じ図形をアイは手元の記号素を組み合わせて作る課題だ。いわば文字を作る、つづる、ということを習得した。一方で、身のまわりの食べ物を図形文字で表現することも教えた。りんごは3つの記号素DCRを組み合わせた図形文字だ。同様に、バナナはSLC、にんじんはHBC、キャベツはBDL、いもはOSB、固形飼料はHWSの記号素を組み合わせた図形文字である。つまり「象徴見本合わせ」である。そしてアイが12歳になったとき、この2つの知識を組み合わせたテストをしてみた。「象徴構成見本合わせ」と名付けた課題である。たとえば実物のりんごをアイに見せる。手元のキーボードには図形文字は無くて9種類の記号素しかない。りんごを見て3つの記号素DCRを選べれば正解だ。選んだ記号素が目の前の画面に重ねられていき図形文字になる。このテストの初日の、にんじんを見せた第1試行で、アイは正しくHBCを選ぶことができた。あとの5つの食物を含めて全体では、初回でまちがえても平均して2.8回目に正しく「文字をつづる」ことができた。26 要約すると、初期のアイ・プロジェクトのひとつの到達点として、チンパンジーの長期記憶に基づく言語的知識は、人間の言語のもつ二重分節という特徴をもちうることを示した。すなわち「にんじん」や「りんご」といった食物を表す「語」に相当するものを、アイはその構成要素である記号素から作り出すことができた。そしてさらに語を3つ連ねて「赤、鉛筆、5」というようにいわば名詞句に相当するような表現もできる。

アイ・プロジェクトは総合的な認知研究として今も続いている。アイだけでなく霊長類研究所には息子のアユムをはじめ1群12個体のチンパンジーたちがいる。45年目に入った長期研究プロジェクトは、研究者が世代交代して新しい研究者たちが主導している。主要な被験者であるチンパンジーもアユムやクレオやパルといった次の世代に引き継がれ、研究トピックも転変し、認知機能を検証する手法もたとえばアイトラッカーの活用など常に新しい進展がある。27 そうした研究の変化とともに特筆すべきは、環境エンリチメントと呼ばれるチンパンジーを飼育する環境インフラの整備だろう。できるだけアフリカの自然の生息地に近づけた物理的環境と社会的環境の整備を心掛けてきた。木々の茂った屋外運動場を用意して高さ15メートルのタワーを建て、それと連結した巨大なケージと連絡通路を用意することで、複数の異なる生息地をつないだ。3世代のチンパンジーが分裂凝集しながら自由に行き来できるようにくふうされている28

若いチンパンジーの作業記憶

アイが23歳になったとき、息子のアユムを産んだ。アユムの父親はアイの長年のパートナーであるアキラだ。ほかの女性たちも出産して、2000年に3組の母子が誕生した。それ以来、しばらくの間は、チンパンジーの認知発達の研究が主流だった。29 そしてこの若いチンパンジーたち3人を対象にした記憶の研究が脚光をあびることになった。長期記憶の研究ではなくて、短期記憶あるいは作業記憶と呼ばれる種類の記憶の研究である。

眼の前のモニター画面に3と5と8という3つの数字が現れたとしよう。これはかんたんな課題で、これまで教えたどのチンパンジーでも3,5,8というように数字を昇順で順番に答えることができる。そうした経験を通じてわれわれが驚いたのは、答える速さだ。まだアイだけを被験者にしたパイロット研究をしていたころ、当時ポスドクだったドラ・ビロさん(現オックスフォード大学教授)がチンパンジーの作業記憶を検証する興味深い課題を考えついた。30 最初の数字に触った途端に、2番目の数字と3番目の数字を入れ替える課題だ。上記の例でいえば、最初の3を触ったとたんに5と8を瞬時に自動的に入れ替える。いつもの課題をしている途中で何の予告もなく突然の「入れ替え試行」を挿入すると、アイはしばしば3の次に8を触ってしまう間違いをした。なぜならもともと5があった場所には8があるからだ。この入れ替えテストによって、チンパンジーは一目でどの数字がどこにあるかをおぼえて、その記憶にしたがって、あらかじめ計画したとおりに数字を順番にさわっていることがわかった。

3つの数字を記憶しているという発見は次なる疑問をたらした。それではチンパンジーは一目見て何個の数字をおぼえられるのか? 人間の認知研究から、サビタイジングと呼ばれる処理過程が指摘されている。だいたい5個までのものなら、1個1個を確認しないでもちらっと見ただけで瞬時にその数がわかる。ほかの指標として、「魔法の数字7プラス・マイナス2」ということも指摘さてきた。31 これはジョージ・ミラー (1920-2012)の指摘だ。彼は認知科学と呼ばれる学問分野の創始者として知られる。人間の短期記憶は、平均的には7項目までしか処理できないという能力の限界があるという説だ。当時ポスドクだった川合伸幸さん(現名古屋大学教授)が新しい課題を考えついた。「マスキング課題」と」名付けたテストである。32 これは「入れ替え試行」の変形だ。最初の数字に触れると、2番目の数字と3番目の数字が入れ替わるのではなくて、両方とも白い四角形でマスクされる、つまり隠される。たとえば上記の例で3を触ると、5と8の両方が白い四角形になる。さて次はどちらですか?という問いかけだ。もちろんチンパンジーは5のあったほうの白い四角形を選ばなければいけない。このマスキング3数字課題は、容易にマスキング4数字課題にできる。3と5と8と9を見せればよい。そしてマスキング5数字課題と順々により困難な課題を作れる。マスキング4数字と5数字におけるアイの成績は、ヒトのおとなとちょうど同じ程度だった。

図2

  • Figure 2b.
  • Figure 2a.

チンパンジー・アユムによるマスキング課題7数字の場面。モニター画面にでてきた数字のなかで一番小さな数字に指を触れると、それ以外の数字が瞬時に白い四角形に置き換わる。その中から次の数字のあったところを触ろうとする。写真撮影:松沢哲郎。

われわれが心底驚いたのは子どもたちの成績だった。アユム、クレオ、パルが4歳になったとき、アラビア数字の順序を教えることから始めた。1から9までの数字の順番をおぼえたあとアイがしたマスキング課題に進んだ。3組の母子の成績を比べるといずれも子どものほうがはるかによくできる。とりわけアユムはマスキング9数字までできた。33 人間のおとなも10秒間とか20秒間をかければ、画面上の1から9までの9数字の場所をおぼえられなくはない。しかし1に触れた途端に2から9までの数字がすべて白い四角形に置き換わる。それを2、3、4・・・があった場所というように順番に触るのは容易ではない。白い四角形に置き換わった途端、頭の中も白くなってかなり当惑するだろう。アラビア数字を使ったマスキング課題は、作業記憶を測るうえでとても優れた指標だといえる。なぜなら数字を何個までおぼえられるか、それを記憶するのにどれくらいの時間がかかるか、その2つの指標で作業記憶を定量的に測れるからだ。言語教示が最小限ですむのもすばらしい。「数字を小さいものから大きいものへ順番に触ってください」と言うだけだ。アラビア数字は世界中どこでも使われている。だから、記憶の容量を、小さな子どものときから発達的に調べられる。年々衰える認知機能の加齢による変化を定量できる。脳への損傷や病気からの回復過程を測定することもできる。

チンパンジーのおとなと子どもと人間の3者で、作業記憶を比較してみようと思い立った。そのためにはマスキング課題をほんの少しだけ変更する必要がある。当時大学院生だった井上紗奈さん(現在は立命館大学特定准教授)と「時間制限課題」を導入した。34 アラビア数字が一定時間しか提示されない。たとえば2、3、5、8、9の5数字が画面に出たとしよう。650ミリ秒、450ミリ秒、210ミリ秒の3条件で、その時間が経過するとすべての数字が白い四角形に自動的に置き換わる(ちなみに650ミリ秒はアイがマスキング5数字をしたときの平均の反応時間であり、こうするとマスキング課題から時間制限課題にスムースに移行できる)。提示時間を制限することで記憶に要する時間をすべての被験者で同一にできるのがこの課題の特徴だ。

時間制限課題におけるアイの成績は、大学生が初めてこの課題に挑戦したときとほぼ同じだった。提示時間が短くなるにつれて記憶する成績が低下した。それに対して、子どものアユムの成績は圧倒的に良かった。しかも提示時間が短くなっても関係なく成績は良いままだった。なお、長期にわたって訓練を続けることの効果も調べた。若い人に何度も繰り返しこの記憶テストをしてもらった。もちろん訓練すれば成績は良くなる。しかしマスキング課題におけるアユムのような成績には、いくら訓練してもだれも到達しなかった。9つの数字を一瞬で見て、どの数字がどこにあったかを記憶して次々と触る。その速さと正確さはアユムのほうがどの人間よりも優れていた。35

ある日、作業記憶がどれくらいの長い時間にわたって保持されるかを示す格好の場面に出くわした。アユムが5数字の時間制限課題をしているときだった。外の運動場で物音がした。アユムは音のするほうに振り向いて気が散ってしまった。そして10秒後に画面のほうに向きなおったが、時間制限課題なので数字はすべて白い四角形に置き換わっていた。それでもアユムは正しく順番に触ることができた! このエピソードから、チンパンジーが一瞬で数字を記憶できて、その記憶が10秒間は続くということがわかった。

認知的トレードオフ理論

アイ・プロジェクトのこれまでの成果から、チンパンジーが図形文字や漢字やアルルファベットや数字といったシンボルの意味を記憶できることがわかった。しかしその一方で、たしかに記憶はできるが、チンパンジーの原初的な言語能力に限界があることも明瞭になった。これまでチンパンジーに人間のするコミュニケーションを教える試みがいくつもあった。声に出して実際にことばをしゃべる、耳の聞こえない人たちの手話を使う、プラスチックで作った色彩片を単語にもちいる、図形文字を教えるといった方法である36 その結果を手短にいえば、どれも人間の言語と呼べる水準には達していない。多くの観点で、言語は人間に固有な能力だと結論してよいだろう。しかしそれは人間がそれ以外の動物よりすべての知性において優れているということではない。進化理論から明らかなことは、すべての生命が太古の昔の共通祖先に由来しており、そこからさまざまな系統に分岐し、現在に到るまで同じ長さの時間を生きてきたということだ。人間はユニークだ。しかしチンパンジーもユニークである。知的な領域においても、そのユニークな面をアイ・プロジェクトが証明した。つまり、チンパンジーは任意のシンボルとその意味を記憶するということは不得意だが、一瞬で見たものを記憶するという面では優れていた。

アイトラッキングという手法を使った最新の研究も、人間とチンパンジーの興味深い違いを例証した。この課題には何の訓練も教示もいらない。ただ画面の前に座っていてね、というだけだ。 画面の下部から目に見えない赤外線が出ていて、眼の角膜表面からの反射を捉えることで、画面のどこを見ているかがわかる、視線を検出する装置である。小さな視覚刺激たとえば顔写真を画面のでたらめな場所に次々と出す。パッパッパッと次々に刺激とその提示場所が切り替わる。それを見ている被験者は、何も言われなくても、おのずから何だろうとその刺激を目で追う。その視線の動きを記録し解析したのだ。チンパンジーはひとつの刺激から次の刺激へときわめてスムースに切り替えられる。ところが人間はそうならない。どうしてもひとつの刺激に固着してしまって、素早く切り替わる次の刺激にスムースには移れないのだ。人間がこの世界を見るやり方は、ある刺激を見てそれが何であるか意味をとる、そうした方向に著しく偏っていることがわかった。それに対してチンパンジーは、次々と注意を移して全体をできるだけすばやく捉えるようなやり方でこの世界を見ているといえる。37

わたしは言語と記憶の「認知的トレードオフ理論」を唱えてきた。38 人間とチンパンジーの共通祖先は今のチンパンジーのような優れた作業記憶をもっていたと考える。しかし、人間への進化の過程で、われわれはそうした作業記憶の能力を失い、代わりに言語という能力をもつようになった、という説である。39

森の中で眼の前をある生き物がさっと通り過ぎたとしよう。背中は茶色で、脚は黒くて、額に白い星があった。チンパンジーならばこうした特徴を瞬時に記憶するだとう。人間にはそうしたことはむずかしい。しかし、見たものにラベルをはるという別の能力を進化させた。見たものを持ち帰る、情報や経験をなかまと共有するための手段だ。目の前で見たものの姿やかたちを体やしぐさでまねる、その生き物がたてた音や声をまねる、さらにはそれに「シカ」といいうような音韻を当てはめる。進化のある時点で脳の容量は一定の制限がある。新たな機能を突然付加することはできない。新たな機能を付加しようとすると、古い既存の機能の一部を失う必要があるだろう。こうして人間への進化のある時点で、人間の祖先は優れた視覚短期記憶の能力を失い、その代わりにわれわれが言語と呼ぶところの認知機能を手にいれた。それが認知的トレードオフ理論である。

人間の祖先は、チンパンジーとの共通祖先から分かれて、森を出てサバンナに進出した。40 そこでなかまと協力した社会的な暮らしを発展させた。集団で狩猟をするし、男女の分業があって共同して子どもを育てる。これは森に残ったチンパンジーとはすいぶん違う暮らしだ。チンパンジーの社会では、子育ては母親だけに限られる。もちろん生物学的には父親が同じ群れの中にいるが、父親や、祖母や、ヘルパーといったなかまからの子育て支援はほぼ皆無である。野生チンパンジーの女性は8歳ころに初潮を迎え、12歳ころに子どもを産み始め、平均して5年に1度の出産間隔で子どもを産んでいく。20歳台も、30歳台も、40歳台でも産み続ける。長命な個体は50歳くらいまで生きるのだが、人間のような祖母という社会的な役割はほぼないといえる。41 年老いた女性はいるが「お祖母さん」がいない。人間社会では情報を分かちあうことが重要だ。知識や技術や経験といったかたちで長期記憶に保持してきた情報を、ひとつの世代から次の世代へと伝えることが必須である。チンパンジーのように見たものを直接記憶する短期記憶の能力は減じたかもしれないが、見たものをもとに想像するちからを手に入れた。42 「いま、ここの世界」ではないものに思いをはせる想像するちからだ。言語も相手の心を理解する能力も、眼には見えないものに思いをはせるという意味では同じで、想像するちからに由来している。想像するちからがあって、そこに分かちあうという本来的な強い動機づけが加わった。想像するちからに裏打ちされた分かちあう心、それが人間の進化の原動力だといえるだろう。

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  1. The Chimpanzee Sequencing and Analysis Consortium, “Initial Sequence of the Chimpanzee Genome and Comparison with the Human Genome,” Nature 437 (2005): 69–87, doi:10.1038/nature04072; and Kay Prüfer et al., “The Bonobo Genome Compared with the Chimpanzee and Human Genomes,” Nature 486 (2012): 527–31, doi:10.1038/nature11128. 
  2. Takayoshi Kano, The Last Ape: Pygmy Chimpanzee Behavior and Ecology (Redwood City: Stanford University Press, 1992); Christophe Boesch, Gottfried Hohmann, and Linda Marchant, Behavioural Diversity in Chimpanzees and Bonobos (Cambridge: Cambridge University Press, 2002); Brian Hare and Shinya Yamamoto, Bonobos: Unique in Mind, Brain, and Behavior (Oxford: Oxford University Press, 2017); and Takeshi Furuichi, Bonobo and Chimpanzee (Tokyo: Springer, 2019). 
  3. For a history of primatology in Japan, see Tetsuro Matsuzawa and William McGrew, “Kinji Imanishi and 60 Years of Japanese Primatology,” Current Biology 18, no. 14 (2008): R587–91, doi:10.1016/j.cub.2008.05.040; Tetsuro Matsuzawa and Juichi Yamagiwa, “Primatology: The Beginning,” Primates 59 (2018): 313–26, doi:10.1007/s10329-018-0672-9. On the topic of hot-spring bathing, see Tetsuro Matsuzawa, “Hot-Spring Bathing of Wild Monkeys in Shiga-Heights: Origin and Propagation of a Cultural Behavior,” Primates 59 (2018): 209–13, doi:10.1007/s10329-018-0661-z. On sweet-potato washing, see Satoshi Hirata, Kunio Watanabe, and Masao Kawai, “‘Sweet-Potato Washing’ Revisited,” in Primate Origins of Human Cognition and Behavior, ed. Tetsuro Matsuzawa (Tokyo: Springer, 2001), doi:10.1007/978-4-431-09423-4_24. 
  4. Cláudia Sousa, Dora Biro, and Tetsuro Matsuzawa, “Leaf-Tool Use for Drinking Water by Wild Chimpanzees (Pan troglodytes): Acquisition Patterns and Handedness,” Animal Cognition 12 (2009): 115–25, doi:10.1007/s10071-009-0278-0. 
  5. Tetsuro Matsuzawa, “Field Experiments on Use of Stone Tools by Chimpanzees in the Wild,” in Chimpanzee Cultures, ed. Richard Wrangham et al. (Cambridge: Harvard University Press, 1994), 351–70; Noriko Inoue-Nakamura and Tetsuro Matsuzawa, “Development of Stone Tool Use by Wild Chimpanzees (Pan troglodytes),” Journal of Comparative Psychology 111, no. 2 (1997): 159–73, doi:10.1037/0735-7036.111.2.159; Dora Biro et al., “Cultural Innovation and Transmission of Tool Use in Wild Chimpanzees: Evidence from Field Experiments,” Animal Cognition 6 (2003): 213–23, doi:10.1007/s10071-003-0183-x; and Susana Carvalho et al., “Chaînes Opératoires and Resource-Exploitation Strategies in Chimpanzee (Pan troglodytes) Nut Cracking,” Journal of Human Evolution 55 (2008): 148–63, doi:10.1016/j.jhevol.2008.02.005. 
  6. Tetsuro Matsuzawa, “Chimpanzees Foraging on Aquatic Foods: Algae Scooping in Bossou,” Primates 60 (2019): 317–19, doi:10.1007/s10329-019-00733-0. 
  7. 以下の映像をぜひ参照していただきたい。 “Algae Scooping,” YouTube video, May 31, 2012. 
  8. Jane Van Lawick-Goodall, “The Behaviour of Free-Living Chimpanzees in the Gombe Stream Reserve,” Animal Behaviour Monographs 1, no. 3 (1968): 161–311, doi:10.1016/S0066-1856(68)80003-2; and Jane Goodall, The Chimpanzees of Gombe: Patterns of Behavior (Cambridge: Belknap Press, 1986). 
  9. William McGrew, Chimpanzee Material Culture: Implications for Human Evolution (Cambridge: Cambridge University Press, 1992); and Andrew Whiten et al., “Cultures in Chimpanzees,” Nature 399 (1999): 682–85, doi:10.1038/21415. 
  10. Tetsuro Matsuzawa et al., “Emergence of Culture in Wild Chimpanzees: Education by Master-Apprenticeship,” in Primate Origins of Human Cognition and Behavior, ed. Tetsuro Matsuzawa (Tokyo: Springer, 2001), doi:10.1007/978-4-431-09423-4_28. The idea of education by master-apprenticeship was also introduced by Frans de Waal in his The Ape and the Sushi Master: Cultural Reflections by a Primatologist (New York: Basic Books, 2001). 
  11. 石器使用の学習過程を示すビデオがあるのでぜひそれをご覧いただきたい。 “Education by Master-Apprenticeship,” YouTube video, March 23, 2012. 
  12. Yukimaru Sugiyama and Jeremy Koman, “A Preliminary List of Chimpanzees’ Alimentation at Bossou, Guinea,” Primates 28 (1987): 133–47, doi:10.1007/BF02382192; and Yukimaru Sugiyama and Jeremy Koman, “The Flora of Bossou: Its Utilization by Chimpanzees and Humans,” African Study Monograph 13, no. 3 (1992): 127–69, doi:10.14989/68093. ボッソウの研究は 1976 年に霊長類研究所の杉山幸丸先生が開始し、世代を超えた研究者に引き継がれている。ギニアのボッソウ環境研究所やコナクリ大学との共同研究である。詳しくは以下のサイトを参照されたい。The Chimpanzees of Bossou and Nimba 
  13. Tetsuro Matsuzawa, Tatyana Humle, and Yukimaru Sugiyama, The Chimpanzees of Bossou and Nimba (Tokyo: Springer, 2011). 
  14. Tetsuro Matsuzawa, Primate Origins of Human Cognition and Behavior (Tokyo: Springer, 2001). 
  15. Endel Tulving, “Episodic and Semantic Memory,” in Organization of Memory, ed. Endel Tulving and Wayne Donaldson (New York: Academic Press, 1972), 381–403. 
  16. 藤田和生と松沢哲郎の共著で「遅延構成見本合わせ」という新しい記憶課題を考案して、人間とチンパンジーの短期記憶の保持時間を比較した。Kazuo Fujita and Tetsuro Matsuzawa, “Delayed Figure Reconstruction by a Chimpanzee (Pan troglodytes) and Humans (Homo sapiens),” Journal of Comparative Psychology 104, no. 4 (1990): 345–51, doi:10.1037/0735-7036.104.4.345. 
  17. Tetsuro Matsuzawa, “The Ai Project: Historical and Ecological Contexts,” Animal Cognition 6 (2003): 199–211, doi:1007/s10071-003-0199-2; and Tetsuro Matsuzawa, “The Chimpanzee Mind: In Search of the Evolutionary Roots of the Human Mind,” Animal Cognition 12 (2009): 1–9, doi:10.1007/s10071-009-0277-1. 
  18. Tetsuro Matsuzawa, The Perceptual World of a Chimpanzee (Tokyo: University of Tokyo Press, 1991) (in Japanese). 松沢哲郎 (1991) 『チンパンジーから見た世界』、東京大学出版会。アイ・プロジェクトが始まる前に、わたしたちの霊長類研究所心理研究部門では、サルを対象にした学習実験を主におこなっていた。そこではミニコンピューター (DEC-PDP-8) を使っていた。浅野先生はそうした実験装置の作製を得意としていてPDP-8を動かすためのプログラム言語(OPEAB)を考案した。わたしも機械語から勉強してミニコンピューターを自分で操作できるようになった。PDP-8の機械語の命令語はエビングハウスの無意味つづりに似ていて、たとえばTAD、DCA、ISZ、JMSといったものだった。チンパンジーの認知実験をするためには、キーボードのキーを点灯し、チンパンジーがそのキーを押したらそれを自動的に記録する必要があった。そうしたチンパンジーとコンピューターとのあいだをつなぐインターフェースの部分は、業者には任せず、技官の南雲純治氏も加わって研究者が自作した。トランジスターと抵抗器とコンデンサーと電磁リレーという電気回路を構成する部品を組み合わせたインターフェースである。約半世紀前の、まだ集積回路というものが一般的ではなかった時代のことだ。 アイ・プロジェクトの発足と時を同じくして、ミニコンピューターはPDP-11/V03に代わった。それが自作のキーボードにつながっている。コンピューターへの入出力装置も、それまでは紙テープに穴をあけた紙テープリーダーだったものが、カセットテープを経て、ちょうどフロッピーディスクに代わるときだった。 
  19. アイ・プロジェクトの最初の著作は浅野俊夫・小島哲也・松沢哲郎・久保田競・室伏靖子の共著。 Toshio Asano et al., “Object and Color Naming in Chimpanzees,” Proceedings of the Japan Academy, Series B 58, no. 5 (1982): 118–22, doi:10.2183/pjab.58.118; and Tetsuya Kojima, “Generalization Between Productive Use and Receptive Discrimination of Names in an Artificial Visual Language by a Chimpanzee,” International Journal of Primatology 5 (1984): 161–82. 図形文字を読み取る課題は小島哲也の単著。個人が自由に独自の発想で研究することを奨励する学風とともに、当時の京都大学理学部の規定で博士学位論文は単著論文しか認めなかったという事情もあって、一連の論文は単著が多い。 
  20. Tetsuro Matsuzawa, “Colour Naming and Classification in a Chimpanzee (Pan troglodytes),” Journal of Human Evolution 14, no. 3 (1985): 283–91, doi:10.1016/S0047-2484(85)80069-5. 
  21. Toyomi Matsuno, Nobuyuki Kawai, and Tetsuro Matsuzawa, “Color Classification by Chimpanzees (Pan troglodytes) in a Matching-to-Sample Task,” Behavioural Brain Research 148, no. 1–2 (2004): 157–65, doi:10.1016/S0166-4328(03)00185-2; and Camille Pene, Akiho Muramatsu, and Tetsuro Matsuzawa, “Color Discrimination and Color Preferences in Chimpanzees (Pan troglodytes),” Primates 61 (2020): 403–13, doi:10.1007/s10329-020-00790-w. 
  22. Brent Berlin and Paul Kay, Basic Color Terms: Their Universality and Evolution (Berkeley: University of California Press, 1969). 
  23. Tetsuro Matsuzawa, “Use of Numbers by a Chimpanzee,” Nature 315 (1985): 57–59, doi:10.1038/315057a0. 
  24. Tetsuro Matsuzawa, “Form Perception and Visual Acuity in a Chimpanzee,” Folia Primatologica 55 (1990): 24–32, doi:10.1159/000156494. 
  25. これは「他人種効果」と呼ばれる現象と同じだ。このほかにアルファベットを個体名にした研究成果として「顔の倒立効果」がある。人間では、顔写真を正立ではなく逆さまにして見せられると、そこに映った人を識別するのが難しく時間がかかることが知られている。チンパンジーのアイで検証したところ、倒立した顔写真の命名が人間の被験者ほどには困難でなかった。チンパンジーの森の暮らしでは、三次元空間を自由に移動してときに逆さまになってこの世界を見ることも多い。そうした知覚における生態学的制約の違いを考えた。以下の文献による。 Masaki Tomonaga, Shoji Itakura, and Tetsuro Matsuzawa, “Superiority of Conspecific Faces and Reduced Inversion Effect in Face Perception by a Chimpanzee,” Folia Primatologica 61 (1993): 110–14, doi:10.1159/000156737; ただしこの顔の倒立効果については友永らによってその後も追試がおこなわれて、チンパンジーでも顔の倒立効果が報告されている。以下に詳しい。 The face-inversion effect in humans and nonhuman primates remains controversial. See Christophe Dahl, et al., “The Face Inversion Effect in Non-Human Primates Revisited – An investigation in Chimpanzees (Pan troglodytes),” Scientific Reports 3 (2013): 2504, doi:10.1038/srep02504. 
  26. Tetsuro Matsuzawa, “Spontaneous Pattern Construction in a Chimpanzee,” in Understanding Chimpanzees, ed. Paul Heltne and Linda Marquardt (Cambridge: Harvard University Press, 1989), 252–65. 
  27. クリス・マーチンと足立幾磨による総説である。Chris Martin and Ikuma Adachi, “Automated Methods and the Technological Context of Chimpanzee Research,” in Chimpanzee in Contexts: A Comparative Perspective on Chimpanzee Behavior, Cognition, Conservation, and Welfare, ed. Lydia Hopper and Stephen Ross (Chicago: The University of Chicago Press, 2020), 182–207. 
  28. Tetsuro Matsuzawa, “WISH Cages: Constructing Multiple Habitats for Captive Chimpanzees,” Primates 61 (2020): 139–48, doi:10.1007/s10329-020-00806-5. 
  29. Tetsuro Matsuzawa, Masaki Tomonaga, and Masayuki Tanaka, Cognitive Development in Chimpanzees (Tokyo: Springer, 2006), doi:10.1007/4-431-30248-4; Masaki Tomonaga et al., “Development of Social Cognition in Infant Chimpanzees (Pan troglodytes): Face Recognition, Smiling, Gaze, and the Lack of Triadic Interactions,” Japanese Psychological Research 46, no. 3 (2004): 227–35, doi:10.1111/j.1468-5584.2004.00254.x; Satoshi Hirata and Maura Celli, “Role of Mothers in the Acquisition of Tool-Use Behaviours by Captive Infant Chimpanzees,” Animal Cognition 6 (2003): 235–44, doi:10.1007/s10071-003-0187-6; and Misato Hayashi and Tetsuro Matsuzawa, “Cognitive Development in Object Manipulation by Infant Chimpanzees,” Animal Cognition 6 (2003): 225–33, doi:10.1007/s10071-003-0185-8. 日本語の総説としては、友永雅己・田中正之・松沢哲郎(編) (2003) 『チンパンジーの認知と行動の発達』(京都大学学術出版会)。松沢哲郎 (2001) 『おかあさんになったアイ』(講談社)ほか。 
  30. Dora Biro and Tetsuro Matsuzawa, “Numerical Ordering in a Chimpanzee (Pan troglodytes): Planning, Executing, and Monitoring,” Journal of Comparative Psychology 113, no. 2 (1999): 178–85, doi:10.1037/0735-7036.113.2.178. 
  31. George Miller, “The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on Our Capacity for Processing Information,” Psychological Review 63 (1956): 81–97, doi:10.1037/h0043158. 
  32. Nobuyuki Kawai and Tetsuro Matsuzawa, “Numerical Memory Span in a Chimpanzee,” Nature 403 (2000): 39–40, doi:10.1038/47405. 
  33. Sana Inoue and Tetsuro Matsuzawa, “Acquisition and Memory of Sequence Order in Young and Adult Chimpanzees (Pan troglodytes),” Animal Cognition 12 (2009): 59–69, doi:10.1007/s10071-009-0274-4. 
  34. Sana Inoue and Tetsuro Matsuzawa, “Working Memory of Numerals in Chimpanzees,” Current Biology 17, no. 23 (2007): R1004–05, doi:10.1016/j.cub.2007.10.027. 
  35. 実際のようすをご覧いただきたい。 “Working Memory of Numerals in Chimpanzees,” YouTube video, January 21, 2019. 
  36. 「類人猿の言語習得」と呼ばれる一連の研究がある。チンパンジーに人間の言語的コミュニケーションを教える試みだ。主なものは以下のとおりである。研究対象となったチンパンジー名と著者を列挙する。グアについてのケロッグの研究 Winthrop Kellogg, “Communication and Language in the Home-Raised Chimpanzee,” Science 162, no. 3,852 (1968): 423–27, doi:10.1126/science.162.3852.423; ワシューについてのガードナー夫妻の研究 Allen Gardner and Beatrice Gardner, “Teaching Sign Language to a Chimpanzee: A Standardized System of Gestures Provides a Means of Two-Way Communication with a Chimpanzee,” Science 165, no. 3,894 (1969): 664–72, doi:10.1126/science.165.3894.664; ワシューの研究プロジェクトを引き継いだファウツの研究 Roger Fouts, “Acquisition and Testing of Gestural Signs in Four Young Chimpanzees,” Science 180, no. 4,089 (1973): 978–80, doi:10.1126/science.180.4089.978; サラを対象にしたプレマックの研究 chimpanzee Sarah by David Premack, Intelligence in Ape and Man (Hillsdale: Lawrence Erlbaum Associates, 1976); ラナを対象にしたランバウの研究 chimpanzee Lana by Duane Rumbaugh, Language Learning by a Chimpanzee: The LANA Project (New York: Academic Press, 2014); ニムを対象にしたテラスの研究 chimpanzee Nim by Herbert Terrace et al., “Can An Ape Create a Sentence?Science 206, no. 4,421 (1979): 891–902, doi: 10.1126/science.504995; ボノボのカンジやパンバニーシャを対象にしたサベージ・ランバウの研究 Sue Savage-Rumbaugh, Ape Language: From Response to Symbol (New York: Columbia University Press, 1986). Ape language studies have revealed their cognitive ability to understand other’s mind; こうした類人猿の言語習得研究は、プレマックらによって他者の心を理解する「心の理論」研究へと発展した David Premack and Guy Woodruff, “Does the Chimpanzee Have a Theory of Mind?Behavioral and Brain Sciences 1, no. 4 (1978): 515–26, doi:10.1017/S0140525X00076512. Studies reveal physical-causal understanding; 言語を離れてチンパンジーがもっている物理的世界の因果の知覚も研究された Daniel Povinelli, Folk Physics for Apes: The Chimpanzee’s Theory of How the World Works (Oxford: Oxford University Press, 2000); さらには野生チンパンジーを対象にして、彼らの自然の生息地での彼ら本来の身振りコミュニケーションを探る研究への展開もある Catherine Hobaiter and Richard Byrne, “The Meanings of Chimpanzee Gestures,” Current Biology 24, no. 14 (2014): 1,596–600, doi:10.1016/j.cub.2014.05.066. 
  37. 狩野文浩と友永雅己の一連の共同研究である。Fumihiro Kano and Masaki Tomonaga, “Face Scanning in Chimpanzees and Humans: Continuity and Discontinuity,” Animal Behaviour 79, no. 1 (2010): 227–35, doi:10.1016/j.anbehav.2009.11.003; and Fumihiro Kano and Masaki Tomonaga, “Species Difference in the Timing of Gaze Movement Between Chimpanzees and Humans,” Animal Cognition 14 (2011): 879–92, doi:10.1007/s10071-011-0422-5. 
  38. Tetsuro Matsuzawa, “Symbolic Representation of Number in Chimpanzees,” Current Opinion in Neurobiology 19, no 1 (2009): 92–98, doi:10.1016/j.conb.2009.04.007. 
  39. 以下のサイトを参照してほしい。“The Cognitive Tradeoff Hypothesis,” YouTube video, December 5, 2018. 
  40. Tim White et al., “Ardipithecus ramidus and the Paleobiology of Early Hominids,” Science 326, no. 5,949 (2009): 64–86, doi:10.1126/science.1175802. 
  41. Melissa Emery Thompson et al., “Aging and Fertility Patterns in Wild Chimpanzees Provide Insights into the Evolution of Menopause,” Current Biology 17, no. 24 (2007): 2,150–56, doi:10.1016/j.cub.2007.11.033; Kristin Havercamp et al., “Longevity and Mortality of Captive Chimpanzees in Japan from 1921 to 2018,” Primates 60 (2019): 525–35, doi:10.1007/s10329-019-00755-8; 霊長類のなかで比較すると人間の女性は閉経後も長生きするという点で際立っている。これは母から子への食物の分与と関係して進化したようだ。年老いた女性がいることでその娘の繁殖成功度が高くなる。子育てにおける祖母の役割があって、閉経後も老化に抗して長命になったと考えられる。これは人間の進化の「おばあさん仮説」と呼ばれていてホークスらによって最初に提唱された。 Kristen Hawkes et al., “Grandmothering, Menopause, and the Evolution of Human Life Histories,” Proceedings of the National Academy of Sciences 95, no. 3 (1998): 1,336–69, doi:10.1073/pnas.95.3.1336. 
  42. Aya Saito et al., “The Origin of Representational Drawing: A Comparison of Human Children and Chimpanzees,” Child Development 85, no. 6 (2014): 2,232–46, doi:10.1111/cdev.12319; and Tetsuro Matsuzawa, “Pretense in Chimpanzees,” Primates 61 (2020): 543–55, doi:10.1007/s10329-020-00836-z. 日本語の総説としては、松沢哲郎 (2011) 『想像するちから』(岩波書店) ; 松沢哲郎 (2018) 『分かちあう心の進化』(岩波書店)。 

Tetsuro Matsuzawa is a Visitor in Psychology at the California Institute of Technology and former Director of the Primate Research Institute of Kyoto University.


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